がん治療 情報収集のコツと注意点

がん治療 情報収集のコツと注意点

がん治療においては、正しい情報を入手し、適切な治療を受けることが非常に重要です。

てっとり早く、手軽に、幅広く情報収集を行う際には、多くの方がまずはインターネットを利用されるかと思いますが、ネット上は様々な情報で溢れかえっており、中には必要以上に不安を煽るようなものもあります。

そこで本記事では、がん治療に関する情報収集のコツや注意点について、自身の経験を踏まえながらご紹介したいと思います。

巷には胡散臭い情報があふれている

平成28年に内閣府が実施した『がん対策に関する世論調査』では、「がんの治療法や病院についての情報源」について、60歳未満の半数以上が、“インターネット”と回答しています。

しかしその一方で、インターネットの検索結果で表示されるがん治療に関する情報のうち、標準治療に関する情報は半分以下といった調査結果もあり、ネット検索を用いてがん治療に関する正しい情報へたどり着くことの難しさが分かります。

私ががんについてネットで調べ始めた頃も、がん患者の「なんとか治したい、生きたい」という切実な思いを利用した悪徳商売や詐欺まがいの情報が非常に多いことを知り、とてもショックを受けました。

非常に残念で嫌悪感を覚え、許せないことですが、世の中には人の命をなんとも思わず、自分が儲かることしか考えていないような業者があるのが事実です。

このような情報にひっかからないよう、「うまい話には裏がある」といった意識を常に頭の片隅に置いて頂き、下記に示すコツを参考にしながら、情報収集にあたっていただければと思います。

情報収集の第一歩

まずは冷静に!!

私が「がんの可能性がある」と診断された際は、不安ばかりが先行し、藁にもすがる思いでインターネットで情報を集めていました。そのような状況下では、あからさまに怪しい広告ですら、「これがもしかしたら正しい治療法では!?」「今すぐ転院してこの治療を受けた方がいいでは!?」と考えてしまったりもしました。

このように、がんと告げられた方は一種のパニック状態に陥り、冷静さを失ってしまっている可能性があります。

私自身、「がん=死」といったイメージを持っていましたが、近年、医療は日進月歩で進歩しており、現在、がんは適切な治療を受ける事で治る病気と言われています。がんと宣告されたとしても、希望を捨てず、まずは冷静になって情報収集することで、誤った情報に惑わされないようにすることが重要です。

情報収集は身近なところから

まずは主治医と良く相談

がんと診断されると不安な気持ちが先行し、ついネットなどの情報に流されがちになりますが、今あなたの状態を一番良く理解しているのはあなたの主治医です。

まずは、しっかりと主治医の話に耳を傾け、自分の“病状”についてあなた自身がきちんと理解することが重要です。なぜなら、がんの治療はがんの進行度合い(ステージ)で異なるため、進行度合いに応じた適切な治療法を選択することが重要になるからです。

あなたの病状とそれに対する治療法について、きちんと主治医から説明を受けた上で初めて、別の情報ソースにもアクセスし、多面的な視点から治療法の検討を行います。

これだけは押さえておきたいポイント

ネットなどで情報収集をしていくと、たくさんの治療法が紹介されていますが、基本的には、主治医の提案する治療法が第1の選択肢と考えるのが望ましいと思います。

なぜなら、①総合病院などで提案される治療法は、科学的根拠に基づき国が定めた標準治療であり、実績や経験の裏付けがある治療であるということ、②あなたの病状を最もよく知る主治医が提案する治療であるため、です。

特に比較的早期の発見で手術の選択肢があるのであれば、手術の難易度や患者さんの年齢や状態にもよるものの、第1の選択肢と考えていいと思います。

手術には失敗の可能性があったり、術後の身体的制限があったり、合併症の問題など、当然リスクやデメリットもあります。しかしそれでも、現在のがん治療においては最も効果の高い治療法と考えられるため、優先度は高いと考えます。

ネット上の広告や個人経営のクリニックなどでは、「手術なしにがんが消えた」とか、「医者の言うことを聞いてもがんは治らない」といった宣伝がされていることがありますが、詐欺まがいの治療であったり、ある一部の人には効果があったかもしれないが、大多数に対して本当に効果があるか分かっていないような(科学的根拠に基づかない)治療法である可能性が高いです。しかもそういった治療には莫大な費用が掛かります。

個人的には、手術を受けられるということは、がん患者にとって大きなチャンスだと考えています。標準治療ではもう効果が見込めないという状況になって初めて、別の治療法に目を向けるべきかと思います。

信憑性の低い情報に惑わされず、冷静に判断することで、折角の治療のチャンスを逃さないようにご注意いただければと思います。

セカンドオピニオンの活用

セカンドオピニオンとは

主治医と相談した結果、主治医が頼りないと感じたり、自分が納得いくだけの十分な説明をしてくれない場合もあります。また、提案された治療法に対し自分自身が納得できない場合もあります。このようなケースでは、セカンドオピニオンの活用が有効です。

セカンドオピニオンとは、現在診療を受けている病院とは別の、違う医療機関の医師に「第2の意見」を求めることです。

医療は日進月歩で進歩しており、その全てを一人の医師が把握しているとは限りません。また、医師や医療機関によっても、提案する治療法が異なる場合があったり、患者さんそれぞれによっても、自身が受けたい治療法は様々です。

別の医師に意見を聞くことで、現在の医師の提案について別の角度からも検討することができ、仮に同じ診断や治療法を提案された場合でも、より病状に関する理解を深めることができる可能性があります。また、別の治療法が提案された場合には選択肢が広がり、より納得して治療に臨むことができます。

セカンドオピニオンの注意点

セカンドオピニオンは、あくまで別の医師の意見を聞くことであり、現在の担当医を替えたり、転院することではない、ということに注意が必要です。

結果として、セカンドオピニオン先での治療を受けることは可能ですが、その場合は現在かかっている病院の担当医を通じて、改めて転院の手続きが必要となりますのでご注意ください。

また中には、「セカンドオピニオン=担当医を変えること」と考え、現在の担当医との関係が悪くなることを心配して、なかなか言いづらいと思われる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、「患者が最善だと思える治療を、患者と主治医との間で判断するために別の医師の意見を聴くこと」がセカンドオピニオンの本来の目的です。ですのでためらわず、主治医とご相談されるのが良いかと思います。

もう1点注意していただきたいのが、セカンドオピニオン外来を設けているクリニックの中には、怪しい医療を提供するようなところもある、ということです。後述の『悪徳医療サイトを見極める』などを参考にしながら、十分に注意した上でセカンドオピニオン先を検討して下さい。

セカンドオピニオンの手順

1.セカンドオピニオンの意思表明

セカンドオピニオンの意思を現在の主治医に伝え、紹介状や採血結果などの記録、CTやMRIなどの画像検査結果のデータを準備してもらいます。

2.セカンドオピニオン先の決定

「セカンドオピニオン外来」を設置している医療機関の中から、セカンドオピニオン先を選択します。

近年、がん医療を行っている病院では、セカンドオピニオン外来を設置しているところが増えています。また、地域の比較的大きな病院は、がん診療連携拠点病院などの指定を受けているところがあり、そういった病院ではがん相談支援センターという相談窓口があります。そのような窓口に問い合わせることで、地域のセカンドオピニオン外来を行っている病院の情報を得ることができます。

3.セカンドオピニオンの準備

セカンドオピニオン先が決まったら窓口に連絡し、受診方法や必要な書類などを確認し、予約を済ませます。

セカンドオピニオン外来は、基本的に保険適用外の自費診療となるため、病院ごとに費用も異なります。予約時にあらかじめ費用も確認しておきましょう。

4.セカンドオピニオンの受診

セカンドオピニオンは限られた時間の中で行われます。自身の病気の経緯や聞きたいことをあらかじめ整理しておきましょう。また、できるだけ1人ではなく、信頼できる人に同行してもらうのも良いかと思います。

5.セカンドオピニオン後

セカンドオピニオンを受けた後は、セカンドオピニオンによりあなた自身の考えがどのように変化したかなどを現在の主治医に報告し、再度、今後の治療法について相談をします。

セカンドオピニオンの結果、セカンドオピニオン先での治療を選択した場合には、改めて、これまでの治療内容や経過などを紹介状などで引き継ぐのが一般的です。

ネットで正しい情報を得る3つの方法

信頼できる情報ソースにアクセスする

はじめに入手すべき情報

ネット上に溢れているがん治療に関する情報には、医学研究の結果に基づく客観的な情報と、個人の感想や体験談に基づく主観的な情報があります。

科学的根拠に基づいた情報であれば、同様の治療法が自分にも効果がある可能性が高いですが、科学的根拠がない個人の感想や体験談に基づき有効性を主張する治療法は、本当に自分自身にとって効果があるかどうかは分かりません。そこでまずは、科学的根拠に基づいた情報を収集することが先決です。

信頼できる情報ソース

科学的根拠に基づく情報は、公的機関や学会などの信頼がおける団体が発信しています。以下に、実際に私が利用した情報サイトを紹介しておりますので、是非参考にしてください。

こちらは、「国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策情報センター」が運営するサイトで、がんに関する情報が多数紹介されています。幅広い情報が詳しく掲載されており、がん治療に関して必要な情報は全て網羅されているといっても過言ではありません。

ただ情報量が多すぎるといった点がやや難点であり、必要な情報にたどり着くの多少苦労するかもしれませんが、正しい情報を入手するためにも、まずはこのサイトで情報収集をはじめることをお勧めします。

米国国立がん研究所(NCI)が配信している世界最大で最新の包括的ながん情報データベースPDQ®(Physician Data Query)の日本語版をはじめとする、がんに関する最新情報を配信するサイトです。

こちらは、米国国立がん研究所(NCI)と日本で唯一ライセンス契約する「(公財)先端医療振興財団 臨床研究情報センター」が運営するサイトで、がんに関する最新情報を配信しています。臨床試験や薬剤情報の検索が可能です。

『がん診療ガイドライン』は,学会等でわが国の医療者向けに作成された、がん診療に関するガイドラインをまとめたものです(日本癌治療学会運営)

こちらのサイトでは、がんの種類・部位別に診療ガイドラインを簡単に検索できます。専門家向けで少し難易度が高いですが、それぞれのがんの専門学会による正確な情報を見つけることが可能です。

自分に当てはまる情報かどうか吟味する

信頼できる情報ソースにアクセスし、科学的根拠に基づく情報を入手したとしても、それが自分自身に当てはまるかどうかは吟味が必要です。

がんは、種類や進行状況によって治療方法も様々であり、患者さんの状態によっては、自分が希望する治療法が適用できる場合とそうでない場合があります

そのため、治療法の適用条件(○○がんのステージ○の患者に適用など)などを十分に確認するとともに、主治医とも十分に相談した上で、治療法を選択する必要があります。良さそうな治療法を見つけたからすぐ転院したが、希望する治療を受けられなかった、といったことがないよう十分に注意が必要です。

悪質医療サイトを見極める

信頼性できる情報ソースへのアクセスを心掛けていても、検索結果で上位に表示されたり、患者の不安心に付け込む甘い言葉が用いられることで、どうしても怪しげなサイトに誘導されてしまうことがあります。

また、標準治療を試してみたが十分な効果が得られない場合、今は標準外治療でも、今後標準治療になりうるよう効果的な治療法がないかと、様々な情報ソースにアクセスすることもあると思います。

そんな時、少なくとも悪質な医療情報に引っかからないよう、悪質医療サイトに共通しがちな特徴を下記に示します。信頼できる情報ソース以外にアクセスする際は、このような特徴の有無を確認し、十分に吟味した上で、情報の良否を判断して下さい。

悪質医療サイトの特徴

①誇張された表現が用いられている

「奇跡の○○」「最先端」「最新治療」「○○するだけでがんが消えた」「つらい副作用なし」「末期がんを克服」といった患者が関心を持ちそうな宣伝文句や、誇張された表現が多数用いられているサイトは要注意です。

また「先進医療」は、厚生労働省が指定する治療であり、提供できる医療機関も決められています。そのような指定をされていないにも関わらず「先進医療」を語るクリニックやサイトは、信用しないほうが賢明です。

②「免疫療法」を全面に押し出している

免疫療法は新たな治療法として近年注目を浴びていますが、有効性や安全性が確認されたものはまだまだ少ないです。それをあたかも非常に効果的として宣伝し、全面に押し出すサイトは要注意です。

③良いことばかり書いてある

がん治療には必ずリスクが伴いますが、信頼性の低いサイトでは、そのようなリスクの説明なく、良いことばかりを宣伝する傾向にあります。「体にやさしい」「安全」「安心」といった文言がちりばめられ、リスクについて触れていないサイトなどには注意しましょう。

④個人の体験談や経験談が掲載されている

仮にある患者に良い治療効果があった治療法があったとしても、別の患者に同様の効果が得られるとは限らず、またその治療効果だけでそのような結果が得られたとも限りません。

このように、個人の体験談や経験談だけでは治療の要否を判断するのは得策ではないにも関わらず、そういった情報を元に治療効果をアピールするようなサイトは要注意です。

⑤治療費が非常に高額

標準治療以外の治療は自由診療となり、全額自費負担となりますが、中には数百万円といった非常に高額な治療費を求めるような治療法があります。

確かに、国が認める「先進医療」の中にも高額な治療費が必要ものもありますが、悪徳医療者ほど高額な治療費で儲けようとたくらむため、高額な治療費を求めるものには、まずはそういった悪徳医療と疑ってかかるのが賢明です。

⑥標準治療を否定している

あからさまに標準治療を否定し、科学的根拠のないような治療法を全面に押し出すサイトは注意が必要です。高額な治療へ誘導し、有効性や安全性が認められていないような治療を勧められる可能性が高いです。

情報収集前に読むべき記事

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